民法総則(1~174条)

意思表示総論(4つの要素)

民法くま

今回は、民法の学習において特に重要な「意思表示総論(4つの要素)」について解説します。

宅建民法の中でも頻出テーマとされている93条~96条(心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺及び強迫)といった問題について対処するためには、意思表示の構造に関する理解がマストであると断言できます。

 

「意思表示」について、なんとなくのイメージで「相手方に意思を伝えること」と漠然と考えている受験生は多いと思います。たしかに概ね正しいのですが、93条~96条を理解するにはもう一段階深く掘り下げることが重要です。

 

これらの93条~96条の条文には「意思表示」というキーワードが多用されています。(たった4つの条文の中で11コも載っている)

条文上では当たり前のように「虚偽の意思表示をする・・・」(94条1項)と規定されている一方で、「意思表示」の定義についてはハッキリと条文の中で規定されていません。

 

そこで、そもそも「意思表示」はどのようにして発生し、また構成されているのか、一度立ち止まって考えてみる必要があります。 

 

では、まずはじめに「意思表示」とは何かについて解説します。

 

 

「意思表示」とは

「意思表示」とは、「当事者が法律効果を欲し、かつそのことを外部へ発表する行為」のことをいいます。

ある一人の意思表示ともう一人の意思表示の合致によって契約が成立することで、それぞれの債権(契約上の権利)と債務(契約上の義務)が発生する、という流れになっています。

民法555条(売買)について考えてみましょう。

第555条 
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法典(令和6年現在)

一方が財産を移転することを約束し、他方が代金を支払うことを約束すること、これらを約束するといった意思表示の合致によって、売買契約が成立します。

法律の条文における要件・効果

法律の条文は「A(法律要件)を満たせば、B(法律効果)が得られる」という建付けになっています。

厳密に言うと、このA(法律要件)を満たす法律行為(意思表示)を行うことによって、当事者が欲するB(法律効果)が得られる、といった流れになります。

 

ここで、民法555条(売買)の条文について、A(法律要件)とB(法律効果)を整理してみましょう。

民法555条(売買)の法律要件・法律効果

A(法律要件)・・・当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約すること

B(法律効果)・・・その効力を生ずる。

例えば、民法555条(売買)に基づいて、 コンビニで商品を買う例を考えてみましょう。

 

ex.売主X・買主Yとの間でコンビニで商品を売買する場合。

A(法律要件)としての法律行為
・・・お客さんである買主Yが商品をレジまで持っていき(買主の意思表示)、店員さんである売主Xがレジで金額を計算して商品を渡す(売主の意思表示)

→それぞれの意思表示が合致。

B(法律効果)
・・・XY間のコンビニ商品の売買契約が成立。

売主Xと買主Yのそれぞれの意思表示を重要な要素として法律要件を満たす(=法律行為を行う)ことで法律効果が発生します。

ちなみに意思表示が「黙示」であっても法律行為として有効ならば契約は成立します(黙示の意思表示で売買契約は成立する)。

A(法律要件)の中で「ある財産権を相手方に移転することを約し」と書いてありますが、
店員さんである売主が「この商品をあなた(買主)にお渡しすることをお約束します。」と律儀に口頭で発言し、また書面を交わす必要はありません。(無人レジが存在していることからも分かるように)

ポイントを整理すると以下のようになります。

法律効果は、意思表示を重要な要素とする法律行為を行うことによって発生する。

 

したがって、民法を勉強する上で「意思表示」の存在が必要不可欠となっていきます。

続いて、今回のメインテーマである「意思表示の4つの要素」について蓋を開けて考えてみましょう。

 

「意思表示」の4つの要素

まず、図のように意思表示の形成過程は4つの要素で構成されています。

①~④のそれぞれの要素について詳しく説明したいと思います。


①動機

意思表示を構成する要素として、最初の段階は「①動機」です。

「動機」とは、「内心的効果意思」を持つ前の段階のことを指します。(※「内心的効果意思」については次のパート②で説明。)

アイスクリームを具体例として考えてみましょう。

①動機の具体例

ex.(アイスクリームが欲しい・・・!)

アイスクリームが欲しい理由としては、さまざまあると思います。甘いものを食べたい、夏場に冷たいものを口にしたいなど。人それぞれによって感じ方は異なります。

いろいろ理由があるにせよ、「アイスクリーム」が欲しい、という気持ちがはっきりしていることが意思表示の出発点となる「動機」になっています。


②内心的効果意思

2つ目の要素は「内心的効果意思」です。一見難しい用語に聞こえますが、簡単に「意思そのもの」と考えてください。「内心的」=「人の内面に宿る」ことを示しています。

 

特に注目すべきである「効果意思」とは「法律効果」を望む意思のことをいいます。

「法律効果」については、前半部分の法律要件Aと法律効果Bのところの話で出てきましたね。

「Aという法律要件を満たす→売買契約の成立によってBの法律効果が発生」というプロセスを経て財産権の移転の効果が生じています。このBの法律効果を望む「効果意思」を持って意思表示を行うことで、Aの要件を満たすことになります。

 

これも具体例で考えてみましょう。

②内心的効果意思の具体例

ex.(アイスクリームを買おう・・・!)

「買う」(法律要件)という意思表示を行うためには、それ以前に「買おう!」(効果意思)と考えている必要があります。

効果意思を持ちつつ意思表示をすれば、結果としてアイスクリームを手に入れる(法律効果)という権利が発生します(逆にお金を支払う義務も発生する)。


③表示意思

「表示意思」とは、②の内心的効果意思を踏まえた上で、それを相手方に対して伝えようとする意思のことをいいます。

ここまでの「①アイスクリームが欲しい→②アイスクリームを買おう!」と自分の内心だけで思いや考えを留めているだけでは、相手に対して意思を表示したことにはなりませんよね。なので、そのことを相手に対して伝えるんだ!という意識を持つ必要があります。

③表示意思の具体例

ex.(「アイスクリームを買う」と言おう・・・!)

 

②内心的効果意思「アイスクリームを買おう!」と思うことはあっても、実際に相手に対して伝える「表示意思」も持っていなければなりません。

実際にそれを示す意思すらなかったら、ただの内心の独り言で終わってしまうわけです。


④意思表示(行為)

「意思表示」の最後の要素です。①~③すべては人の内心で完結していましたが、この④意思表示(行為)を実際に相手方に対して行うことによって初めて、意思表示を発したことになります。

④意思表示の具体例

ex.「アイスクリームを買います!」(黙示でもよい)

これで意思表示が完了したことになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

意思表示の4つの要素について理解することで、これから学習していく93条~96条の条文内容について深く掘り下げていくことができます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

プロフィール
とある民法くま
とある民法くま
宅建民法解説くま
宅建試験を約3ヶ月の勉強期間で合格。宅建で一番難しい民法を日々研究しており、ふじやま式図解方法で分かりやすく解説し、初心者~上級者まで数多の受験生に民法の攻略法を伝授してきたオスのクマ。日建総合模試45点を獲得した。(会場内成績1位)
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